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高知地方裁判所 昭和28年(ワ)291号 判決

原告

茂井元義

被告

高松梅吉

外一名

主文

被告高松梅吉は、原告に対し、金四五、八八〇円及びこれに対する昭和二八年七月三〇日以降右完済迄年五分の割合の金員を支払うこと。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告高松兼作との間に於て生じた部分は、原告の負担とし、原告と被告高松梅吉との間に生じた部分は、これを二分し、その一宛を原告と同被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告に於て、金一万円の担保を供するときは、仮に執行できる。

事実

(省略)

理由

原告の主張事実中、原告の亡妻勢世と被告両名との身分関係、(≪編注≫被告兼作の嫁であつて被告梅吉の姉に当る。)右勢世が肺結核で死亡したこと、勢世の葬式に被告等が参列しなかつたこと、昭和二八年三月二四日、原告が、煙草乾燥場に行く迄の経過、同日、原告主張の右煙草乾燥場附近で、被告梅吉が天秤棒で原告をたゝいたことは当事者間に争なく、而して、原告が、その主張の如き傷害をうけ、且後遺症(≪編注≫全治約一五日を要する頭部裂傷等の傷害および頭痛、眩暈の後遺症)を生じたことは、成立に争のない甲第七号証、原告本人の供述、証人下司の証言及び右証言により成立の認められる甲第三号証によつて認められる。

原告は、右傷害は、被告両名の共同不法行為によるものであると主張するので、この点に付て考察するに、証人福本栄の証言、原告本人の供述及び成立に争のない甲第九、一〇号証(被告の認否は、結局右甲号証の成立を認めることになる)を綜合すると、前記煙草乾燥場に於て、原告と被告等は、仲よく焼酎等をのんでいたが、その内被告等が、勢世の葬式に参列しなかつたことを、しつこく原告がなじるので、この事から端を発して、酔余、原告と被告梅吉とは、組合いとなつたため、同被告の妻幸美、被告兼作等が、両者の仲に入つて、とり静め、原告を、右乾燥場からつれ出し同道する際、原告が、右幸美にからむので、被告兼作が、原告の首に手をかけしめつけて、とり押えようとして、共に倒れたが、同被告は、すぐに、原告の首にかけた手をはなしたこと、それから右幸美は、一人で、原告を引張り起して、なほも、からむ原告を、つれて行こうとしているところに、被告梅吉が、走るが如く、やつて来て、前記の如く、天秤棒で、原告をたゝいたため、前記の如き傷害を原告がうけたものであることが認められるのであつて、(右認定に反する原告本人の供述は採用できない)右認定事実に明かな如く、被告兼作は、右幸美にからむ原告をとり押えようとしたに過ぎないので、原告に対し、故意に暴行を加えようとしたものではなく、まして、被告梅吉と、暗に意を通じて、原告に暴行傷害を加えようとしたものではないし、又客観的に見ても、被告兼作が、原告の首をしめつけ、原告と共に倒れたことと、被告梅吉が原告を天秤棒でたゝいたこととは、何等相関連するものではない。このように、被告兼作には、何等不法行為と見るべき所為はなく、前記傷害は、被告梅吉の単独の不法行為によるものと言うべきであるから、右傷害が、被告両名の共同不法行為に因るものであるとの原告の主張は採用し難い。

従つて、右傷害によつてうけた原告の損害は、被告兼作に於ては、何等その賠償義務なく、被告梅吉に於て、その賠償をなすべきである。

そこで、右損害額に付て考察する。

原告本人の供述及び右供述によつて成立の認められる甲第二、四号証によると、原告が、右傷害の治療に関する必要費として、その主張の(七)の(1)の(イ)の金四、五一〇円、同(ロ)の金一一、三七〇円、同(ハ)(ニ)の合計金の内一万円を支払つたことが認められる。原告は、右(ハ)(ニ)に於て主張の如く、溝渕末喜に対しては、右一万円の外尚一、七五〇円の支払義務があるというが、右溝渕末喜は原告の妹である点、原告が未だに、右一、七五〇円を支払つていない点及び右(ハ)(ニ)の内には看病料名義のものが入つており、これは必ずしも必要とは認め難い点など考えると、右一、七五〇円の部分は、必要な支出とは認められない。従つて、以上、原告が支出した合計金二五、八八〇円が、右治療に関する損害額である。而して、被告等は、治療費として八千円支払つたと主張するのが、これを認めるに足る証拠はない。

次に喪失した得べかりし収入の点に付て考察するに、原告本人の供述によると、原告は鍼灸あんまの免状をもつており、又田畑八反余を所有しておること、本件傷害をうけた当時、原告は鍼灸あんま業を主として行い、農業は原告の子供が主に行つていたことが認められる。而して原告は、鍼灸あんま業によつて、右傷害をうけた当時、一月平均二万円の収入を得ていた旨供述するが、右供述をたやすく採用し難く、他に原告主張の喪失した得べかりし収入額を認めるに足る証拠はない。

ところで、原告が、右傷害をうけたために、肉体的精神的苦痛をうけたことは言うまでもないことであつて、被告梅吉は、その慰藉料を支払うべきである。而して、前記認定に係る(イ)傷害の程度、(ロ)原告は田畑八反余を有して、原告の子供が主として、その耕作に当つている点、(ハ)原告の亡妻勢世と被告梅吉が姉弟であつた点、(ニ)本件暴行は、原告と被告梅吉共、互に焼酎その他をのんでいた席上、勢世の葬式に同被告等が参列しなかつたことを原告が非難したことから端を発し、酔余偶発的に生じた点、(ホ)同被告方は田畑約八反を耕作し、内約六反は自作地であるが、借金が四十万円位ある点(この点は証人高松幸美の証言により明かである)同被告方は、原告に対し、見舞金五千円を支払い(当事者間に争のないところである)、又前記認定以外に於て、原告が他に医者にかゝつた治療費約三、〇〇〇円を支払つている点(この点は証人高松幸美の証言により明かである)等考慮すると、右慰藉料の額は金二万円が相当である。

以上、原告のうけた損害額は、合計金四五、八八〇円である。

被告梅吉は、過失相殺を主張するが、同被告主張の如く、原告に過失があるとしても、損害賠償額の算定に斟酌すべき程度のものではないから右主張は採用し難い。

仍て、被告梅吉は、原告に対し、右損害金四五、八八〇円を賠償する義務があるものと言うべきであるから、同被告に対し、右金員及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和二八年七月三〇日以降完済迄年五分の割合の金員の支払を求める範囲で、原告の本訴請求は正当として之を認容し、同被告に対するその余の請求及び被告兼作に対する請求は失当として、これを棄却すべく、訴訟費用の負担に付、民事訴訟法第八九条第九二条を、仮執行の宣言に付、同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 井上三郎)

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